飛火野耀という小説家について。

飛火野耀というグーグルで引いても1700件しかヒットしないマイナーな小説家の作品が好きだ。彼はわずか九冊の本を出した後、もう十年以上も世から姿を消している。噂では編集者はおろか、家族でさえ行方は分からないそうだ。

作品の中で本人がだいたいいつも登場していて、「これはSFではない。僕の身に本当にあったことです。」と書いてあるので、
たぶん今は異世界を旅していて、そのうち帰ってきたら、また体験談を書いてくれるだろう。

ところで、久しぶりに彼の文章

 ちょうどレコードはフィナーレにさしかかっているようだった。コーラスが最後の盛り上がりを作っていた。トビヒノ氏はちょっと考えてから答えた。
「『魔笛』を聞いていつも思うのは、ザラストロの治める国には住みたくないな、と言うことですね」
「ほう? それはどうしてです?」
モーツァルトは知らなかったことで、我々二十世紀末の人間が知っていることがあるとすれば、たとえどんなものにせよ、宗教やイデオロギーによって支配される理想社会ほど、非人間的なものはないということですからね」トビヒノ氏はそこで少し間をおいて、先を続けた。「だから、僕は、あなたが権力を握っているような社会には、住みたくありません」
 教祖は、それに対して、声をたてて笑った。しかし、その笑いはどことなく空々しかった。 』

   飛火野耀『神様が降りてくる夏』

を読んで思った。

飛火野耀村上春樹のSF用変名?